私は、この風を知っている。

「あ! その紐!」

 誰かが、私の結んだ赤い紐をほどこうとしていた。

「すみません! 私のです!」

 急いで駆け寄ると、その人は優しく微笑む。

「あなたのでしたか、こちらこそすみませんでした」

 柔らかな声。切れ長の漆黒の瞳。その姿に息が止まる。

「どうして、紐を結んでいらしたのですか?」

 その人は瞳をパチクリとさせながら首を傾げている。

「ま、呪いです」

「呪い?」

「この地域で有名な、有馬皇子ってご存知ですか?」

「いえ。北海道から今日越して来たばかりで。探索していたらここに辿り着いたもので」

 その答えに苦笑する。
 北海道なんて、随分と遠くから逢いに来てくれたんだと思って。