“__藤白の御坂を越ゆと白妙の我が衣手は濡れにけるかも”

 鉛色の空は、あの日のことを思い出させる。だけどこの道を歩く私は、もうあの日には戻れない。塩谷さん、舎人さん。そして皇子の顔が浮かぶ。ここは寂しくて悲しい道。
 ソヨソヨと風に揺れる木の枝には赤く染めた葉がついている。いつものように少し背伸びをしながら、葉と同じ色をしたこの紐をそっと結ぶ。皇子が私の小指に結んでくれたように、そっと優しく……。