「ちょっと待って! そんなに長い名前は覚えられないんだけど!」と、男子生徒の言葉に本当にねと思って笑う。

塩谷(しおや)さん。新田部(にいたべ)さん。境部(さかいべ)さん。(もり)さん。って覚えたらいいかもしれない」

 皆の名前を正確に聞き取ることがどれだけ難しいか、この私が一番わかっている。だから黒板に丁寧に書いていく。大切な人達の名前を。

「ちなみに、新田部さんの前に付く舎人(とねり)とは名前ではないから気を付けてね。天皇や王族の近くで仕える、等級の低い官使っていう意味だから」

 __舎人さん。
 なんて、失礼極まりない呼び方をしていたのだろうかと自分が恐ろしくなる。だけど、いつだって笑顔で応えてくれたあの姿を私は忘れない。