慣れ親しんだ空間には、あの頃の私と同じような顔をした生徒達がいる。
 __退屈。
 その気持ちはわかるから、心の中で苦笑いを浮かべる。

「では、昨日の続きから。年表を開いてください」

 静かな教室に紙を捲る乾いた音が響く。

 “__658年・有馬皇子謀反の罪で処刑”

 その文字を人さし指でそっと撫でる。

「有馬皇子は皆知っていると思うけど、この地域でとても有名な人物です」

 寝ている者や欠伸をする者を横目に、その名前を響かせる。

「彼は謀反の罪で藤白坂で絞殺されてしまいました。そして側近の塩谷コノ魚(しおやのこのひろ)と舎人の新田部米麻呂(にいたべのこめまろ)も共に処刑をされています。しかし守大石(もりのおおいわ)境部薬(さかいべのくすり)は、配流されましたが許され境部薬は中大兄皇子、後の天智天皇に仕えることになります」

 これが未来に伝わる歴史。