「藤白の坂を越えると有馬皇子のことを思い出して、涙で袖が濡れてしまう」

「完璧だ!」

 目を輝かせる麻美に苦笑する。
 だって、この歌を詠んだのは他の誰でもない。
 __私だから。

 1400年前の飛鳥時代から1400年後のこの世界まで。誰かが私の生きた証を、皇子の生きた証と共に守ってくれたことを知る。
 __嬉しい。
 生きることが尊いと教えてくれた皇子はもうどこにもいないけれど。皆のいない世界で生きることはとても辛いことだけれど。
 だけどここで生きる意味を見つけた。
 __守る。
 今日から私の生きるこの未来で皆の歴史を守っていく。

「私、歴女になる」と、隣にいる麻美に笑いかける。
 もう、関係ないなんて思わない。もう、どうでもいいなんて思わない。だって歴史は皆の生きた証。とてもとても尊い証だから。