「諸説あるみたいだけど私もそう思う。何か、わからないけど」と、戸惑いながら笑う麻美に私は気づかされた。

 歴史がどう伝わろうと鵜呑みにする人ばかりではない。その中から真実を見つけてくれる人はいる。

「麻美。皇子の歌を詠んで欲しいの」

 私の要望に麻美は笑顔で応えてくれる。

磐白(いはしろ)の浜松の()を引き結び ま(さき)くあらばまたかへり見む」

 コロコロとした鈴のような声が風に乗って響くのと同時に、私の目の前にはあの瞬間の光景が蘇る。
 松の枝を結ぶ皇子の背中。
 ふり返って微笑む顔。

「岩白の浜松の枝を結び無事を祈る。もし命あって帰ることができたなら、また見られるだろう」

「凄い! いつの間にか訳せるようになったんだ!」

 歴史にも古文にも興味がなかった私が歌を理解していることに驚く麻美。
 あそこが今も残る岩白だったとは麻美が詠んでくれて初めて知ったけれど。

「有馬皇子は結んだ松の枝を見られたのかな」

 ふと呟く麻美に小さく微笑む。
 見られたよ、一緒に。すごく嬉しかった。生きて戻ってこられたことが、すごくすごく。