「さっき行った、皇子の墓碑の近くにあったじゃない」

 そう言われても、あの時は興味がなかった。それに麻美にとっての「さっき」は私からした一ヶ月も前のこと。記憶が曖昧だ。

「どんな歌?」

 突然、興味をもった私に麻美は目を輝かせる。

「あのね! 万葉集ってあるじゃない? あれの最も優れた歌って言われてるの!」

「最も優れた?」

 それって、すごい。まさか私の隣で、そんなすごい歌を詠んでいたなんて知らなかった。

「万葉集にはね。相聞(そうもよ)雑歌(ぞうか)挽歌(ばんか)。と、三つの区分があって皇子の歌は晩歌の一番最初の歌なんだよ!」

「挽歌って何?」

「人の死を悲しむ歌だったり、死ぬ時に詠む歌とか。辞世の句って言うんだけど」

 __辞世の句。
 目を閉じると、鮮やかな海が澄みきった空が瞼に映る。あの時に詠んでいた歌が辞世の句だったなんて。隣にいたのに私は皇子の気持ちに気づけなかった。