「少し落ちついた?」

 近くのベンチに座らせてくれた麻美は、私にペットボトルに入った水を差し出す。
 __ペットボトル。
 今の私には久しぶりに触れる未来のモノ。紛れもなくここは未来だと実感する。そして同時に皆と過ごした日々が過去になってしまったことが悲しくてたまならい。

「大丈夫?」

「うん」と、頷くと麻美が私の左手を握る。

「これは?」

 視線を向けると小指には赤い紐が結ばれていた。1400年の歳月を色褪せることなく皇子が結んだ型のまま私と共に飛び越えてきた。その事実にまた泣き出しそうになる。

「……呪い」

「え?」

「無事に帰れるようにって」

 そしてまた逢えるように。
 皇子の姿を思い出して涙が滲む。

「それって有馬皇子の? って、優花ちゃん興味ないじゃない」

 スラッとその名前が出てくる麻美に私は目を細める。皇子の生きた証は、こうして未来に残っている。どうやら私は、ちゃんと守れたようだ。

「麻美。皇子の歌って残ってるよね?」

「勿論」と、即答されホッとする。