また、止んだはずの風が木々を揺らす。探すようにその先を見つめていると、おかしなことに気づいた。
 さっきまで私を導いてくれていた風が今は同じ場所の木々を揺らしている。それも私の頭上で留まっている。
 __まさか!

 懐から歌を取り出すと皇子の文字にそっと触れる。私がこの歌の意味を知るのは1400年後の未来。
 とめどなく溢れ出す涙をゴシゴシと白い袖で拭いながら、初めて出会った時のことを思い出す。皇子は、私の涙を優しく白妙の袖で拭ってくれた。そんな皇子は、もうどこにもいないけれど私は知っている。姿がなくとも想いは永遠に生き続けることを。