“__優花殿”
 耳元に優しい声が響いた瞬間、ふわりと吹いた温かな風に落ち葉が舞う。

「……皇子?」

 辺りを見渡しても、その姿を見つけることはできない。だけどこの風を私は知っている。
 サワサワと頬を撫でる風が木々に移ると、その枝を揺らしていく。目で追いながらその後をついていくと突然風が止んだ。ふと足元に視線を落とすと目の前には薄汚れた木の箱がある。よく見ると、板葺きの屋根がついた小さなお家みたいだった。
 不思議に思いながら、両開きの小さな扉を恐る恐る開けてみたけれど中には何も入ってはいない。