「優花殿!」

 その声に、ハッとする。

「行くのだ!」

 世界が、ゆっくりと動き始める。
 __そうだ。私には守らなければならない約束がある。
 震える手を握りしめ唇を噛み締める。脚が震えてどうしようもないけれど踏ん張り必至に堪える。
 離れたくない。だけど好きだから。大好きだから。私は生きる。生きないといけない。

「何があっても皇子の生きた証を守るから」

 その漆黒の瞳を真っ直ぐ見つめる。

「だから皇子も私との約束を守って」

 小指に結ばれた赤い紐。
 皇子は、しっかりと頷いてくれる。

「必ず、守る」

 最後に、そっと唇を重ねて自ら立ち上がる。
 信じているからギュッと一度目を閉じる。そして開いた瞬間、勢い良く輿から飛び降りた。