「これは、優花殿にしか頼めぬのだ。私の生きた歴史を生きた証を守ってくれぬか?」

 口を噤む私を皇子は優しい眼差しで見つめる。
 ずるい。そんな言い方をされたら何も言えない。
 何よりも皇子の命を守りたいのに皇子の願いは命ではなく生きた証を守ること。1400年後にまで残る歴史を守ること。
 そしてその願いは私にしか叶えることができない。

「優花殿」

 優しく名前を呼ばれる。
 失いたくない。こんなに好きな人に出会えたのに離れたくなんてない。これからもずっと一緒にいたい。
 だけどこの人は、それを望んではいない。
 もう、わかってしまった。私がこの時代にタイムスリップした理由……。
 __皇子の命ではなく皇子の生きた歴史を守る為。

「……わかった」

 震える唇を噛み締めながら、ゆっくりと皇子の手から大事な歌を受け取る。私にできることは、もうこれしか残されていない。