「守れるのは優花殿しかおらぬのだ」

 皇子は、どこまでも透き通った瞳で私の瞳を覗き込む。

「未来で、私は有名なのであろう?」

 その言葉に息が止まる。

「悲劇の皇子と言われるのは府に落ちぬが」と、苦笑する姿に心臓が悲鳴を上げる。

“__藤白坂で亡くなった皇子”
“__……私は、聞いたことがないぞ?”
“__悲劇の皇子って言われてるんだけど、その人のことなら少しは知ってるけど……”

「前から思っておったのだ。もしかしたらそれは私かもしれぬと」

 __藤白の坂で殺された皇子。
 否定したいのにできないのは藤白坂を通る度にどこか不安になっていた自分がいたから。
 だけど1400年という果てしない歳月に事実は変化してしまったのかもしれない。生きているのに死んでしまったと伝えられたり、その逆だって考えられる。
 だけど皇子は抗うことも許してはくれない。その瞳は揺らがない。

「悲劇ではない。私は誠幸せだったけどな」

 ただ、その運命を受け入れるように微笑んでいる。