「優花殿に託したいものがある」

 戸惑う私に皇子は懐から取り出した木簡三枚と筆を差し出す。それは皇子が大事にしていた筆と、この道の途中に詠んだ歌。

「これを頼みたい」

「頼むって……」

「神社か寺が無難であろう」

「持って行けってこと?」

 皇子は小さく頷く。

「一人でなんて嫌。一緒に持って行こう?」

 絶対に嫌だ。そんなの私だけ生きろと言っているのと同じこと。
 皇子の形の良い唇は引き結ばれ瞳は閉じられる。そして私をその腕の中に閉じ込めた。

「すまぬ」

 そんな言葉は聞きたくない。死んで欲しくない。ただ生きていて欲しい。

「嫌っ。嫌だよっ!」

 首を振る私の頭を皇子は優しく撫でる。こんなに好きなのに離れたくない。失いたくない。