朝焼けが森の中を照らすと輿は静かに動き出す。その振動で皇子の瞼が微かに動き夢の狭間を漂う瞳は私を捉えると細められる。

「……おはよう」

「おはよう」

 そんな他愛ない言葉でさえ交わせることが幸せで堪らない。手を繋いで肩にもたれ合っているかだけでどうしようもなく幸せ。難しい言葉なんていらない。触れ合うだけでこの気持ちが満たされる。
 ふと、塩谷さんと舎人の顔が浮かぶ。きっとあの二人は逃げたりしない。最後まで皇子の傍にいるはず。私だって同じ気持ちだ。