「少し止めてもらえぬか?」

 突然、皇子が外に声をかける。

「どうしたの?」

「見ればわかる」

 皇子が簾を持ち上げると目の前には大きな松の木が現れた。

「あったぞ」

 視線の先にあるその形を見た瞬間、泣きそうになる。皇子が結んだ松の枝は行きと同じ形のまま私達を待っていてくれた。

「無事、ここまで戻って来られたな」

 そう言いながら皇子が細い指でその枝に触れる。
 __皆と一緒に戻ってこられた。
 そのことがこんなにも嬉しい。生きていることも、皆が生きていてくれることも当たり前のことではないんだ。

「参りますぞ!」

 遠くから物部さんが叫んでいるけれど皇子は答えない。

「物部さんが……」

 ゆっくりと近づきその肩に触れたけれど言葉の続きを飲み込む。皇子は何故か苦しそうに顔を歪めていた。