「有馬皇子よ。最後に話しを聞いてやるぞ?」

「最後って!」

 声を上げる私の前に優しく牽制するように皇子は手を伸ばす。そして微笑むと中大兄皇子に向かってひれ伏した。

「私は謀反など企てておりませぬ。全ては赤兄と天のみが知っております」

「天? 私は知らぬぞ?」と、ニタニタと笑うその瞳に皇子は笑顔を向ける。

「私利私欲に溺れぬ、こちらの天の方にございます」

 そう人差し指を何もない天井に向ける。

「私は誠の天を存じております」

「誠の? ふっ。戯けたことを。私が神だと言っておるだろ?」

 嘲笑う中大兄皇子から視線を外す。そして皇子は私を見つめ柔く微笑みながら言葉を落とした。

「私は天の奇跡をこの目でしかと拝しました故」

 __1400年後の未来を生きる私。
 __1400年前の過去を生きる皇子。
 私達が出会えたことが天の起こした本当の奇跡だと皇子は思ってくれている。
 泣き出しそうになるのをグッと堪えながら心の中で強く願う。
 __この出会いが奇跡ならば、どうかもう一度だけ力を貸して。皇子を助けて。