「やーめーよ」

「し、しかし!」

「よい。お前は下がっておれ」

 そう言うと、ゆらゆらと揺れる影がゆっくりと立ち上がり私に近づいてくる。逃げたい衝動にかられるけれど足の指に力を入れその場に縫い付ける。中大兄皇子は私に思いっきり顔を近づけると小さく呟いた。

「良いことを教えてやろう」

「何よ」

 思いっきり眉間に皺を寄せる。

「この世に仏はおらぬ」

 私はその瞳をただ睨みつける。

「御加護などない」

「あんた!」

「神なら、ここにおるがなっ?」

 その細い指が私の頬にスッと触れる。
 __ここに?
 目の前で中大兄皇子は不適に笑っている。