「し、塩谷さん!?」

 立ち上がろうとする私を後ろにいた男が制する。どうやら塩谷さんは、この男に殴られたようだ。

「大~きい声を出すでないっ」

 中大兄皇子は倒れている塩谷さんを見下ろしながら、シッシッと手であしらう。

「な、何てことを!」

 立ち上がろうとした舎人さんもまた、押さえつけられ突っ伏す。中大兄皇子は楽しそうにその光景を眺めていた。

「……最低」

 冷たい瞳がゆっくりと動く。私を見つめながら中大兄皇子は首を傾げた。

「そなたは兎の化身と聞いたが」

「そうだけど? 何?」

「な、何という口の利き方を!」

 さっき私の動きを制した男が叫び出す。

「このお方が誰だかわかっておられるのか!?」と、耳元で騒がれ堪忍袋の尾が切れた。

「煩いな! 大きな声を出さないでくれる!?」

「な、何を!?」

「私の御加護でぶっ殺してやるんだから!」

「貴様!」

 その男が私に飛びかかろうとした。皇子が咄嗟に身構えたのが見えたけれど楽しげな声が男の動きを止める。