次に輿が止まると、やっと外に出て休憩がとれた。座ったままだったから腰が痛いけれど歩きっぱなしの塩屋さんと舎人さんのことを考えたら「疲れた」なんて言えない。
 太陽の光に向かって少し身体を伸ばすと優しい風が頬を撫でる。今は、こんな当たり前のことが尊い。

「何してるの?」

 少し離れた所で背伸びをしていた皇子に近づくと、その細い指で松の枝を結んでいた。

「結ぶことにより霊力が宿るとされているのだ。それ故、旅の安全を願う呪いとして用いられておる」

 この旅が無事に終わるように。と、願いを込めて。

「命を結ぶ。契りを結ぶ。結ぶというのは特別な意味があるのだぞ?」と、微笑む姿が日の光によって白く霞んで見える。

「歌を詠みたい気分だ」

 皇子は近くにあった大きな石に腰掛けると懐から木簡と筆を取り出す。