「美味だ」

 そっと嬉しそうに呟く皇子に私も頷く。
 皇子の美味と私の美味はきっと違う。だけどこの時代で生きて、たったこの飴一粒すら貴重で尊いものだと知った。現に今、尊いと思っている。 そうやって少しでもその価値観に近づけたことが嬉しい。
 甘酸っぱいみかんの味は私に未来を思い出させる。帰りたいかと聞かれたら帰りたいけれど、皇子の傍から離れたくない。ちぐはぐな想いが交錯するこの心をどうすることもできない。それだけこの人は私にとって大切な人だから。
 このまま私はこの時代で殺されるかもしれない。わかっていたのに離れられなかった。