暫く皇子は無言のまま、どこか呆然と外を見ていた。朧月のような儚いこの人が好き。凛とした覚悟をもったこの人が好き。全部は知らないし知ることはできないとわかっているけれど、この気持ちを無視することも止めることもできない。

 __忠義。
 ううん、本当はただの我が儘な感情。

「牟婁の湯に向かう」と、皇子がポツリと呟く。

「斉明大王と中大兄皇子は牟婁の湯に行幸中だ」

 皇子が勧めた湯に中大兄皇子はいる。