どうして、引き止めなかったのだろう。どうして、この手で繋ぎ止めておかなかったのだろう。後悔をしながらも理解している。恐らく、そんなことをしたところで皇子は笑うだけ。
 “__案ずるな”
 その身分から。その運命から。逃げられないということを皇子は誰よりもわかっている。いや。それ以上に逃げたくないと思っているのだろう。誰よりも、この運命をこの宿命を受け止めている。

 “__優花殿”
 優しい笑顔を思い出す。透き通った声を思い出す。
 本当にこのまま、さよならなの?このまま、もう二度と会えないの? 全てが思い出に変わってしまうの?
 漠然としていた悲しみが確かな存在となり襲いかかる。