“__優花殿に出会えて誠によかった”

 あれは別れの言葉。そしてこの宴は別れの宴。
 塩谷さんも舎人さんも気づいていた。そしてどこまでも冷静な皇子の態度は、こうなることに気づいていた証拠。
 __いつから?赤兄さんが接近してきた時から?今日、飛鳥宮から出た瞬間から?
 あの顔は全てを悟った顔だった。死をも覚悟した顔。
 塩谷さんと舎人さんが皇子を追って出て行く。露さんと、時雨さんと、五月雨さんが泣き崩れる。 使用人達も部屋から出て行く者もいれば呆然としている者もいる。
 私はただその光景を眺めていた。まるでモノクロのベールの内側から見ているみたいに色のないその光景を。