__中大兄皇子。
 物部さんは中大兄皇子の仲間ということなのだろう。赤兄さんを使って皇子に謀反を起こさせようと仕向けてもダメだったから。今度は物部さんを使って大軍を率いてやってきた。

「……皇子」

 縋るようにその名前を呼ぶ。だけど皇子は私の方を見ると「案ずるな」と笑うだけ。そして「きっと、もう戻れる」と、言った。
 __戻れる?
 優しくこの手を握っていた熱が離れていく。だけど私は一人立ち上がり離れていく皇子の背を呆然と見ていることしかできない。

「一人で行く」

「な、なりませぬ!」

 塩谷さんが皇子に駆け寄る。

「そうですよ! 私達は最後まで有馬皇子様の家臣なのですよ!?」

 そして舎人さんも。