「や、やめてよ」

 思わず声が震える。
 __嫌だ。そんな顔しないで。

「誠に出会えってよかった。そう思う」

 __何それ。そんなのまるで……。


「皇子様!!!!」

 緊迫した声が温かな世界を切り裂く。部屋に転がりこんできたのは難波宮の門を守っている使用人。その姿に悪いことが起きたのだと一瞬で察する。だけど隣いる皇子は、いつもと変わらず冷静に答える。

「どうした?」

「も、物部(もののべ)殿の兵が大軍を率いてこちらに向かっております!」

「な、何だと!?」

「ど、どういうことにございますか!」

 声を荒げたのは使用人と露さん。塩谷さんと舎人さんは皇子と同じように揺らぐことはない。