__そんなことない。
 無責任な慰めの言葉は飲み込む。
 だって皇子は言った。赤兄さんも大岩さんも境井さんも、天は中大兄皇子だと思っていると。ならば、さっきの言葉の意味も伝わらないと皇子は思っている。だけどそれでも、その言葉に賭けなければならない程にこちらの立場は危ういということ。
 __お願い。届いて。
 少しでもいいから伝わっていて欲しい。
 だけど大岩さんと境井が離れていった。その意味を考えずにはいられない。不安と恐怖で震えそうになるのをグッと堪える。皇子には悟られてはいけない。隣にいる皇子は、いつだって真っ直ぐ前を見据えているから。ならば私もグッと前を見据える。皇子と同じ景色が見えるように。