ここからだとよくわからないけど肘掛けの脚の部分を、刀で叩いているように見える。塩谷さんも舎人さんも驚いているのか黙ったまま。しばらくすると皇子は気がすんだのか塩谷さんに刀を返す。そして、脚がグラグラになった肘掛けを横に置き何事もなかったかのように座り直した。

「良くいらっしゃいました」

 ボソボソとした声が聞こえたかと思うと反対側の入り口から大岩さんと境井さんが表れた。そしてその奥に見えたのは四十代ぐらいの男の人。
 太い眉毛が印象的なキリッとした顔のその人は、皇子の前で平伏す。
 __彼が蘇我赤兄さん。
 それにしても声が小さい。ここからの距離ではハッキリとは聞き取れない。