「ゆ! ……ん」

 大声を出そうとしたその口を片手で塞ぐ。そして隣を歩いている舎人さんには空いている方の手で声を出さないでとジェスチャーを送る。

「皇子に見つかったら、きっと帰らされると思うから。だから小さな声でお願い」

「わ、わかりました」と、舎人さんは頷く。口を塞がれた塩山さんもコクコクと頷いている。

「それにしても、どうかされたのですか?」

 肩で息をしながら尋ねる塩谷さんに「何となく」と、笑って誤魔化す。
 まさか、皇子の服装が藤白坂で殺された皇子の絵と似ていただなんて縁起の悪いことは言えない。

「藤白は通らないよね?」

「通りませんよ」

 一応、塩谷さんに確認をしては安堵する。
 やっぱり、これはただの偶然。だけどこの目で皇子が難波宮に帰る所を見届けるまでは安心できない。