「……皇子は赤兄さんのことを信じてるの?」

「私は誰も信じぬ。特に中大兄皇子の重臣などもっての他だ」

 __誰も。
 その答えに安心した自分と傷付いた自分がいる。
 皇子が赤兄さんを疑っているのなら一先ず安心だけれど。

「案ずるな」

「うん」

「それと、私は明日から難波宮を留守にする」

「……え?」

 __このタイミングで?

「ニ日程は、かかるであろう」

「どこに行くの?」

 しかし、その問いは優しい笑みにかわされる。何も聞かないで欲しいと、これ以上は立ち入ってはならないと。そう言われているのがわかった私は、ただ口を閉じ皇子を抱き締めることしかできなかった。