「優花殿。どこに行っておったのだ?」

「五月雨さんの部屋」

 部屋に入ると先に戻っていた皇子が目をパチクリとさせる。そして咄嗟についた私の嘘に気づかず微笑んでいる。

「それより赤兄さんは?」

「案ずるな」

 そっと私の頭を撫でる。
 だけどこの胸にある不安が消えることはない。

「皇子は大王になりたいって思ってないんだよね?」

 前にも言っていたし、先程は謀反なんて起こさないと言っていた。だけど、どうしても不安で尋ねてみると皇子は手の動きを止め遠くを見ながら優しく目を細めた。

「なれるものなら、なってみたいものだな」

 __それって、謀反を起こすつもり!?
 ヒヤヒヤしながらと言葉を呑み込む。

「民を幸せにしたい」と、皇子は力なく笑う。

「されど己の力は己が一番わかっておる」

「それは、なれないってこと?」

「そうだ」

 でもさっき、皇子が大王になることを皆が望んでいると大岩さんは言っていた。