「……皆か」

 顔は見えないけれど皇子の声が寂しさで滲むのは何故だろう。

「そうでございます。赤兄殿も皇子様についておられるのですよ」と、大岩さんが必死に説得しようとしている。だけど赤兄さんは中大兄皇子の……。

「私は大王の地位など望んではおらぬ」

「み、皇子様!?」

 衣擦れの音に顔を上げると皇子がサッと立ち上がった。

「拝謁し民が困惑していると持ちかけてはみる。しかし謀反など以ての外。赤兄には私から申しておく」

「み、皇子様! お待ち下さい!」

 そして大岩さんを振り払うと皇子は部屋を出ていった。
 赤兄さんが皇子側についたと大岩さんは言っていた。だけど、そんな簡単に信じていいものなのだろうか。その瞬間、私の頭に嫌なニ文字が浮かぶ。だけど皇子には大王になる意志はないから。大丈夫だと信じたい。