「有馬皇子様。このまま大王の失政を黙って容認されるおつもりですか?」

 __失政?
 それは大王が間違った政治をしているということだろうか。
 部屋の中の重たい空気が廊下の外まで流れ出て私の脚に絡みつく。よく聞こえないけれど大王の話をしているということはわかる。

「それにしても石垣を造るために運河を造り、十万人程の人夫を費やすとはさすが斉明大王でございますな」と、緊迫した空気を壊したのは塩谷さん。どこか呆れたように笑っている。
 十万人がどれ程の人数かは想像がつかない。だけどきっと、それはとてつもなく多い数だと塩谷さんの態度から窺える。