「そのような顔をするな」

 黙ったままの私に皇子は優しく微笑む。

「家臣達もおる」

 わかっている。皆が皇子の傍にいる場で赤兄さんが刀を抜くことはない。

「優花殿は、ここで待っておれ」と、私の頭を優しく撫でてくれる。そして部屋から出て行く背中を見送った。
 赤兄さんは何の用事で皇子を尋ねてきたのだろう。と、しばらく悶々としていた。だけどこの頭で考えてもわかるはずがない。