行きと同じように輿はゆっくりゆっくり進んでいく。気分転換に外を眺めても昼間に見た白浜の海を通っても気持ちが晴れることはない。ただ良からぬことを考えないように皇子にこの不安を悟られないように時を過ごす。
 担ぎ手の人達はあまり休憩をとらずに歩き続けた。そして二日目の朝に泊まったお寺にまたお世話になったけれど仮眠をとる程度にしたのは、あちらに着く時間を調節する為だとか。通常運転の皇子は相変わらず笑っているけれど、その顔はいつもと違う。どこか気を張っている。
 __中大兄皇子。
 ただ教科書に載っていただけの名前。それが今は私の目の前に生きて立ちはだかっている。そう考えたら、とても眠ることなんてできなかった。