「食べるか?」

「へ?」

 目の前に差し出された紫色の飴と怪訝そうな皇子の顔を交互に見つめる。

「どうした? 難しい顔をして」

「べ、別に?」

 笑って誤魔化すと揺れる輿の中で私は飴を頬張る。ぶどうの味は人工的で懐かしい。

「美味だな」

「そうだね」

 この心の中で不安が大きくなっていく。
 政治の実権を握っているのは中大兄皇子だと言っていた。だけど今、皇子が敵意がないことを伝えようとしているのは斉明大王。きっと、これは賭け。
 “__中大兄皇子が水面下で動いている”
 その言葉の意味をその言葉の危険性を皇子は誰よりも理解している。