「患うふりを辞めるのは諦めたからではない」

「……皇子」

「私の病をも治したこの湯を勧めることで、敵意がないことを少しでも示せればよいと思っておる。斉明大王は今、孫を亡くされ消沈しておられるのも確か。この湯が癒してくれるであろう」

 そう明るく笑う皇子を私はぎゅっと抱きしめた。
 __大丈夫。
 そんな無責任な言葉は言えない。だからせめて、この熱が伝わるように。皇子は一人じゃない。

「……温かいな」

 そう言って抱きしめ返してくれる腕の強さに安心する。皇子は生きている。大丈夫。大丈夫。まるで自分自身に言い聞かせるように私は何度も心の中で繰り返した。