「確かに大王は叔母上である」

「だったら」

「しかし、政治の実権を握っているのは別の者だ」

「それって……」

「中大兄皇子は己が実権を握る為に操れる者を大王の位につけた。斉明大王は云わばお飾り」

「そんな……」

 この世界を動かしているのは大王じゃない。中大兄皇子が、この世界を支配している。

「父上とてそのように思われていた故に大王になられた。しかし背いた」

「だから、難波宮に置き去りにされた……」

 私の言葉に皇子は頷く。
 中大兄皇子には誰も逆らえない。

「案ずるな」と、私の心の中を見透かしたように優しい声で言う。

「そんな簡単に殺されまい」

 だけど触れた温もりに思わず泣きそうになる。