「わかりました」

 とりあえず口だけで返事をすると、私は浜田に気付かれないように小さく溜息を吐きながら枝を掴む。

「もっと丁寧に」

 なんて指導は無視して黒い紐をパッとほどいて浜田に返す。そもそも、私を選んだ浜田が悪い。
歴史の成績だって良くないし、授業中は寝るぐらい……。

「……歴史なんて嫌いだ」

「何だ、坂口?」

 声に出てしまった本音を作り笑いでなかったことにする。

「何でもないです」

 過去の人に想いを馳せるなど無意味だし時間の無駄でしかない。
 浜田が好きなこの皇子だって史実には残るものの、目で見たものでもない。本当に存在していたのか浜田にだってわからないじゃないか。
 ムスッとしたまま、皆の待つ列に戻ると儀式を終え満足した浜田はまた軽快な足取りで歩き出した。