「そんな嫌そうな顔をするな」

 何も知らない浜田が大きな溜め息をつく。
 確かに皆の前で紐を結んだりほどいたりしたくない。謎の呪いなんてどうでもいい。早くこの場所から解放されたい。と、手短に済ませようとする私の隣で浜田はゆっくりと話し出す。

「みんな。皇子の気持ちになってみるんだ」

 その発言に周りの生徒たちが「またか」と苦笑している。だけど気づいていないのか、気づかないふりをしているのか浜田は変わらぬテンポで話し続ける。

「もしかしたら、自分は死んでしまうかもしれない。どこかでそう思いながら、無事を祈り松の枝を結ぶ。それを考えたら、今こうしてこの目で松の枝を見ることができたことは、とても幸せなことだと思わないか? こうして枝から紐をほどくことができることも、この上ない幸せだと感じないか?」

 頼むから、早く帰らせてくれ。そう願っている私と、同じことを考えている生徒たちは呆れた顔をしている。約一名、麻美だけがコクコクと何度も頷いているけれど、それならばこれからは二人だけで課外授業をして欲しい。