「海だ」

 少し離れた所にいる皆を横目に通常運転に戻った皇子。透き通った声が波の音に流されていく。

「……綺麗」

 初めて見た夜の海は昼間に見るよりも幻想的だ。どちらが地で、どちらが空かわからくなるような不思議な感覚に陥る。
 この時代にも海は変わらず存在した。ううん、海だけじゃなくさっき通ったあの山だって。それを考えると自然ってすごいと思う。

「牟婁の湯まではもうすぐだ。寝ていればすぐにつく」と、皇子が意地悪く笑う。

「ごめんね。つい」

「いいのだ。私も寝ておったからな」

 皇子の優しさに私は素直に「ありがとう」と、微笑んだ。