思いが通じたのか優しく微笑むと私の手を握り返してくれる。今はその温もりに心が落ちつく。

「あそこは?」と、遠くを指差す私に皇子は「難波宮だ」と答える。薄い茶色の世界に浮かぶ鮮やかな色。白と朱の壮大な佇まいは遠くから見るとより迫力がある。名前の通りまさに宮殿。

「凄いんだね。難波宮って」

「父上の都だからな」

 ふと小さく笑った皇子は簾を下げる。
 笑っているけれど、その心は泣いている。

「湯につくのが楽しみだね」

「そうだな」

 そんなことしか言えない自分に幻滅する。1400年という距離はあまりにも遠い。皇子の気持ちに寄り添いたいのに、とても難しい。