「それでは出発するぞ~。さあ~」

 皇子に手を引かれ輿の中へ入る途中、視線を感じた。塩谷さんがニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。

「し、お、や、さ、ん?」

 思いっきり睨むと「どうかされましたか?」と、爽やかな笑顔でかわされる。
 思わず溜め息をつくと皇子の視線を感じたけれど気づかないふりをする。その瞬間、輿が動き出す。また隣にある腕を掴みそうになったけれど必死に耐えた。

「塩谷と仲が良いのだな」

その言葉に心臓が跳ねる。

「た、多分、向こうも気を遣ってくれてるんだよ」

「そうか」

 素っ気なく答えた皇子はプイッと顔を背ける。どうやら、また不機嫌になってしまったようだ。