「何を話しておった?」

「え、あ……」

 本人には言えないと口ごもる私に皇子は痺れを切らしたのか「もうよい」と背を向ける。

 “__輿で優花殿のお手に触れました時の、皇子様を思い出してしまいまして。妬いている皇子様の姿を初めて見ました”
 塩屋さんの言葉を思い出し、また顔が熱くなる。皇子が焼きもちを妬くなんて有り得ないのに何だか心がふやふやに柔らかくなっていく。

 夕食の時間になっても、ぎこちない私と不機嫌極まりない皇子を交互に見てはニヤニヤとわらっている塩谷さんに困った顔の舎人さん。大岩さんと、境井さんは通常運転だ。居たたまれのない気持ちになった私は、侍女達の側にいたけれど寝る時間になると嫌でも皇子と二人きりになる。

「明日も早い。ゆっくり休め」

 運悪く旅先には皇子と私の間を隔てる衝立がない。だから、お互い思いっきり離れて背を向け横になる。だけど、このままでは眠れない。