「入るよ」

 部屋では皇子が長い紙を持って難しい顔をしている。

「それは?」

「文だ」

 どうやら誰かからの手紙を読んでいるようだ。

蘇我赤兄(そがのあかえ)からだ」

 __蘇我アカエ?
 入鹿(いるか)さんしか聞いたことがない。

蘇我馬子(そがのうまこ)の孫にあたる」

 そうなんだ。と、そこで嫌なことに気づく。
 蘇我入鹿を殺したのは中大兄皇子。その身内である有馬皇子のことを彼はどう思っているのだろう。