しばらくすると皇子は細長い木の板を持って戻ってきた。あれは木簡だ。

「優花殿は歌を詠んだことはあるか?」

 平然としている皇子に私のほうが呆気にとられてしまう。

「な、ないけど」

「試しに詠んでみよ」

「あ、うん」

 私は渡された木の板を見つめながら考える。さっきのは一体何だったんだろうか。
 __歌を教える。
 それを、あんな至近距離で言わなくてもいいのではないだろうか。
 皇子は私から離れると縁側で景色を眺めながら筆を動かす。

「どうだ?」

 こちらに向けられた背中に何だか自分だけが振り回されている気分になる。