「こうに、ございますか?」

「そう。じゃあ次は私ね」

 私は今、五月雨さんの部屋で一緒にアヤトリをしている。
 たまたま、アウターのポケットに入っていた黒い紐は浜田の課外授業の時に枝に結んでほどいたものだ。すっかり返すのを忘れていた。

「どうされましたか?」

 動きが止まった私に五月雨さんが首を傾げる。
 麻美は、どうしているだろうか。きっと、お母さんもお父さんもみんなも心配しているに違いない。悲しくなるから考えないようにしていても、こうしてふとした瞬間に思い出してしまう。

「何でもない。はい、どうぞ」

 誤魔化すように五月雨さんの指から紐を救い上げる。考えてもどうにもならないと私が一番わかっているから。