「何故、優花殿が泣く」

 戸惑いながら皇子は淡い水色の袖で、この頬に触れる。私にも何故、自分が泣いているのかわからない。だけど、胸が押し潰されたみたいに苦しい。

「泣くでない」と、優しく微笑みながら涙を拭ってくれる皇子はやはり朧月みたい。その存在はどこまでも淡くて、どこまでも儚い。なのに、その真ん中には覚悟という芯が通っている。
 こんな人に私は出会ったことがない。
 私が歴史に詳しかったらな。と、後悔する。そうしたら少しは皇子の力になれたかもしれない。
 __皇子の力になりたい。
 そう思うのに私はあまりにも無力すぎる。