「……望んでいないの?」

 今一度、答えを確かめると切れ長の瞳がこちらを真っ直ぐに見つめる。

「私は望んでなどおらぬ。己の力は己が一番わかっている故」

「なら、どうして」

「大王に不満をもつもの達が私を大王にしようと動く可能性がある。だから私の意志は問わず存在自体が疎ましいのだ」

 __前の大王の息子。皇子だから。その存在自体が邪魔だということなのだろう。

「……中大兄皇子は、どう恐ろしの?」

 恐る恐る尋ねると皇子はふっと小さく笑いながら「あの男は、手段を選ばぬ」と、言った。