「あ、五月雨さん!」

 ある日の午後。私は廊下を歩く彼女を呼び止める。

「優花様」

 平伏そうとする腕を掴むと戸惑った顔をしている。この時代の礼儀とはいえ、一々平伏せられるのは何だか居たたまれない。

「紙ってありますか?」

「か、紙。和紙のことにございますか?」

「そう」

 また平伏そうとする彼女を止めると諦めたのか、どこかの部屋から黒い箱を持ってきた。

「こちらにございますが。何に使われるのですか?」

「鶴を折ろうと思って」

「鶴で、ございますか?」

「皇子と和紙で遊ぼうかなって」

 その言葉に五月雨さんの瞳が優しく細められる。

「五月雨さん。ありがとう」と、頭を下げて皇子の部屋に戻ろうとした。だけど一つ、思い出したことがある。